半分の月がのぼる空〈4〉 grabbing at the half-moon

 記憶なんて、なんの役にも立たない。いつかは消えてしまうものだ。そばにいれば、笑ってくれていれば、記憶は残りつづけるだろう。なぜなら積み重なっていくからだ。そしてそれは光り輝くだろう。けれどいなくなってしまえば、もう記憶が積み重なることはない。ただ置き去りにされ、雨に打たれ、風に晒され、だんだんとその色を失っていくだけだ。そしていつか、そこにそんなものがあったことさえも忘れてしまうに違いない。

 なぜなら、我々はそういう生き物だからだ。

「一日でもいいからさ。一分でも、一秒でもいいからさ。できるだけ長く生きてくれよ。頼むよ、小夜子」

 うん、と彼女は肯いた。

「頑張る」

 その言葉のとおり、小夜子は頑張った。

 一年間、持ちこたえた。

「なあ、里香」

 時間がない。

 無駄口叩いてる場合じゃないだろ。

「なに」

 まだ笑っている里香に、僕は言った。

「そばにいていいか?ずっとずっとさ、そばにいていいか?」

(中略)

「そんなに長くはないよ」

 里香は細い声で言った。

「でも短くもないよ」

「わかってる」

「裕一、あたしのためになにもかも諦めなくちゃいけなくなるよ」

「それもわかってる」

(中略)

「ずっといっしょにいようぜ、里香」

「うん」

 里香は肯いた。

「ずっといっしょにいよう」


半分の月がのぼる空の追憶 - YouTube

「あんたらみたいな薄っぺらいプライドできゅうきゅうしてる男どもはどうか知らないけどさ、女ってのはたとえ短くても・・・・・・いや、短いからだけどさ、思いっきり幸せで思いっきり笑える瞬間があればそれだけでなんか納得できるんだよ。そういうのだけで生きていけるんだ。里香は、あの子は今、幸せだよ」


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