楽聖少女2

この人はルゥと同じだ。芸術家なのだ。人の心に火を届ける喜びは、どんな麻薬よりも強く、甘い。一度その味を知ってしまったら、求める声に耳をふさぐなんてできなくなる。

 僕は何も言えなくなる。ナネッテさんがひどくまぶしかった。彼女はそのいのちをピアノのためにすべて燃やすと決めているのだ。それは祝福でもあるし、呪いでもある。でも、燃やすなとはだれも言えない。生きるなと言っているのと同じことだ。

楽聖少女2 (電撃文庫)

楽聖少女2 (電撃文庫)

「なぜぼくらが歌を、詩を、物語を創ると思うんだい?絶対に満たされないからだよ。いずれ喉が灼かれ血が腐ると知っていながら海水で渇きを癒やそうとする漂流者のように、ぼくらは永遠に満たされないがゆえに創り続けるんだ」

 憧れだ。

 歓喜に心震わせ、けれど満たされない者が、憧れに身を焦がす。

 与えられた美しさでは満たされないから、他のだれも満たしてはくれないから、僕らはペンをとり、白紙を目の前に広げ、自分の手で書き出すのだ。いつか祖父が教えてくれた通りだ。憧れだけが時代をつくる。


Ludwig van Beethoven - Pathetique 2nd mov ...

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