ゼロヨンイチロク

 夜景を見るのは初めてではないし、いま特別に悲しいとか、嬉しいとか感情が盛り上がっているわけではない。注目したい何かがそこにあるのでもない。なのに、不思議と目が離せなかった。風と、湿度と、山のにおいと、ふくらはぎが微妙に張る疲れが溶けあって、身体がほかのことをさせてくれない。空気が胸に染みてきて、そこからふわりと身体が浮き上がる感じがした。自分はたしかにいまここにいるのに、同時に夢の中にいる気分だった。一人の心細さが逆転して、一人ぼっちが心地よかった。

ゼロヨンイチロク (MF文庫J)

ゼロヨンイチロク (MF文庫J)

「いま、星にたどり着いた感じ」

「ああ・・・・・・そうか」

 明智も起きあがり、かるく身体の草を払って立ち上がる。

 日は暮れて、頭の上に星。市街地とは比べものにならない量の、すごい数の星。

 そして、足の下ーー眼下に見える湖面にも、散らばって光る夜景の星。

「美緒ちゃん。わかる?」

 振り向くと、いつの間にか美緒も立ち上がり、あの日、月を見上げたのと同じ目で、細い首を伸ばして星空を見ていた。

「ほら」

 めぐみは美緒の手をとって、片方ずつ、美緒の左右の目にそっと重ねた。

「いま、美緒ちゃん星をすくったから、そのぶん、目の前が暗くなったでしょ」

「・・・・・・」

「そこに何か見えない?誰か、美緒ちゃんの大事な、会いたい人とか」

「・・・・・・」

 しばらくの間、美緒は自分の目を覆ったまま、じっと、暗い中に立っていた。

 めぐみも、明智も、息をつめて美緒の答えを待った。

 月明かりと、遠い背後の自販機の明かりだけのはずなのに、目が慣れているのか不自由は少ない。だから、美緒がかすかに唇を震わせたのも、きちんと見えた。

「・・・・・・さん」

声もかすかで、震えていた。美緒ちゃん、と叫びたい気持ちをグッとこらえて、めぐみは次の言葉を待った。

「おかあ、さん・・・・・・」

 ただ、その言葉だけでめぐみは泣けた。やっぱり、最初に戻る心はお母さんなんだ。

 

MyForrest | ゼロヨンイチロクの旅

「ゼロヨンイチロク」聖地巡礼

 

清水マリコの小説がそれはもう好きで好きで - 俺ビュー

『傷を忘れるために必要だったのか、傷と向き合う為に必要だったのかはわからない。あの一時期、僕は清水マリコの本を何度も読み返した。6冊の緑色の本を頼りに、その時期を乗り切った。』

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