とある飛空士への恋歌3

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「戦死した人にとって一番辛いのは、自分が死んだことで大切な人が傷ついて、生きていけなくなることなんだと思う。ぼくにはそれがどのくらい深い感情なのか、わかるなんていえないけど・・・・・・。でもきっと、ぼくが想像する以上に苦しい気持ちなんだろうって・・・・・・」

「うん・・・・・・。あたしもわかるなんていえないけど・・・・・・でも絶対、大事な人がそんなことになったら耐えられないと思う。たとえばあたしが死んじゃって、大事な人がしおれちゃって、生きていけなくなったりとかしたら・・・・・・それが一番悲しいと思う」

「うん、ぼくもそう。ぼくがドジなことして死んじゃって、それで・・・・・・大事な人が・・・・・・くじけてしまって、明るくて元気な気持ちをなくしちゃったら・・・・・・それが一番悲しい」

「ね・・・・・・。絶対そうだよ、うん・・・・・・」

「だから、もしも・・・・・・空族と戦うことになって、飛空科の中で死んじゃう人が出ちゃったとしても・・・・・・一番いけないのは、残った人が元気をなくしちゃうことだと思う。弔う気持ちは大切だけど、悲しいのをいつまでも引きずったり、明るさをなくしちゃったりしたら、戦死した人が悲しむと思う・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「残った人には、戦死した人をしっかり弔って、それからその人の分まで元気に明るく生きる責任があるんだと思う。それが死んでしまった人への一番の餞なんじゃないか、って・・・・・・」

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 本当にバカだと思う。こっちの十倍近い大群を相手に、飛空科を卒業してもいない訓練中の生徒が練習機に乗ってむかっていったら果たしてどうなるか、考えなくてもわかりそうなものだ。かなうはずがない。全滅するに決まってる。どうしてそんな簡単なことがわからないんだろう。どうしてカルエルはこんなにバカなんだろう。なんでこんなバカなやつがあたしの弟なんだろう。バカばっかりして、周りに心配かけて迷惑かけてそれを屁とも思ってない。こんな天然培養の大バカ野郎は、のこのこ戦場に出かけていってその場で撃ち落とされて死んじゃえばいいんだ。きっと死ぬときになってやっと自分がとってもバカだったことに気づいて泣き叫ぶんだろう。「母上助けてー」とか「アリー助けてー」とか、そのときこいつがあげるであろう悲鳴まであたしの耳にはもう聞こえてる。ほんとにほんとにほんとにバカだ。どこまでもどこまでも果てしなくバカだ。あまりにバカすぎて、ヘタレでマザコンでナルシストすぎて、不安で心配でいてもたってもいられない。

「・・・・・・バカ!バカバカバカバカバカっ!!」

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 シャロンははじめて見る戦場の夜空に息を呑んだ。

 言葉に置き換えることのできない、崩壊美とでもいうべきものが厳然としていた。

 この五か月間、当たり前に生活していた風景が、いつまでも変わらずにここにあると思っていた日常が、わずか一夜にして火炎と瓦礫と噴煙に塗り込められ、あっけなく崩れ去り、死と破壊に彩られる。凄絶きわまりないその情景のなかにどこか、甘い感傷が紛れ込んでいる。

 この熱狂のなかで死ぬのかーー。

 そんな思いが胸のうちのどこかをよぎる。シャロンは我に返り、自分のこころの働きを振り返ってから、強く首を左右に振ってその考えを捨て去った。

 それは弱い思いだ。弱さに甘えたら、そこで足が止まってしまう。前へ進むためには強くあろうとしなくてはならない。強さを振り絞って、どんな困難も必ずくぐり抜けられると信じて行動しなければならない。そうでないと戦場に呑まれてしまう。戦場に酔ったまま、ここで死んでしまう。

とある飛空士への恋歌3 (ガガガ文庫)

とある飛空士への恋歌3 (ガガガ文庫)

「ずっと前、あたしたちが九歳の頃。あんたがはじめてうちに来て、ほんとは王子だってわかったときのこと、おぼえてる?」

「・・・・・・え?・・・・・・あ、ああ・・・・・・うん。おぼえてるよ」

「お姉ちゃんたちと、あんたと、雑魚寝してて。そのとき、あたし思ったんだ。あぁ、これからなにか、素敵なことがはじまるんだな、って」

「・・・・・・・・・・・・」

「ほら、うち、貧乏だったでしょ?だからあたしも、大きくなってもベラスカスの町からずっと出られないで、近所の子と結婚して、家をもって、ずっとこの町で暮らすんだなあ。ってなんとなく思ってたの。あんたがうちにくるまで」

「・・・・・・・・・・・・」

「あんたが来てから、飛空機に乗れるようになって、こうやってイスラで生活しながら、空の果てを目指す冒険にでれて。素敵な友達にもいっぱい出会えて、笑ったり、泣いたり、怒ったりしながら、飛空士になる、って夢を追いかけることもできて。あの予感、やっぱり当たったんだ。辛いことも多いけど、でも、全然、後悔なんかしてない」

「・・・・・・・・・・・・」

「あんたがくれたいまが、あたし大好きだよ。こんな冒険できるの、あんたのおかげだから」

「・・・・・・アリー・・・・・・」

「あたしはいま、とっても幸せなの」


とある飛空士への恋歌PV(ガガガ文庫) ロングバージョン - YouTube


映画『とある飛空士への追憶』冒頭12分ノーカット - YouTube